研究室サイト更新に伴う旧サイトからの転載となります。2006年1月に流したプレスリリースです。
記者発表について
1 発表日時 2006年1月20日
2 発表形式 記者クラブ等への情報提供
3 発表タイトル 遺伝子発現のオン・オフを切り換える分子スイッチを同定
4 発表者
半田 宏 (大学院生命理工学研究科・教授)
山田 朋子 (大学院生命理工学研究科・博士課程2年)
山口 雄輝 (大学院生命理工学研究科・助手)
5 発表概要
本学大学院生命理工学研究科の半田宏教授,山田朋子博士課程2年,山口雄輝助手らによる研究グループは,生体内に存在する,遺伝子発現のオン・オフを切り換える分子スイッチを同定した.
6 発表内容
細胞の核内で,RNAポリメラーゼIIという酵素はテープレコーダーのヘッドのような働きをしている.つまり,ゲノムDNA上をスライディングしながらDNA上に刻まれた遺伝情報を読み取り,メッセンジャーRNA分子を合成していく.転写伸長反応と呼ばれるこの過程は,DSIFというタンパク質によって正負に制御されていることが最近の研究から分かってきた.つまり,ある遺伝子が不要なときにはDSIFがその発現を抑制し,必要なときにはDSIFがその発現を促進する,というわけだ.DSIFは生体内の遺伝子発現を制御する重要な因子として働いているが,その正負の機能の切り換えが実際にどのようにして起こるのか,これまで分かっていなかった.
今回,半田宏教授らのグループは生体内におけるDSIFの働きを詳しく調べ,P-TEFbというタンパク質リン酸化酵素がDSIFをリン酸化することで,DSIFの機能を抑制から促進へと切り換えることを突き止めた.c-fosという遺伝子の発現は増殖因子によって誘導されることが知られている.増殖因子がないとき,DSIFはc-fos遺伝子上で働くRNAポリメラーゼIIに結合して転写伸長を阻害するが,増殖因子があるとき,DSIFはP-TEFbによるリン酸化を受けて,転写伸長を逆に促進することが分かった(図1).以上のことから,P-TEFbによるDSIFのリン酸化が,遺伝子発現のオン・オフを切り換える分子スイッチとして働いているものと半田宏教授らのグループは考えている.
生体内で遺伝子の発現は時間的・空間的に複雑に制御されている.例えば怪我をしたとき,細胞が増殖して怪我を直すが,そこでは増殖因子によって誘導されるc-fosなどの遺伝子群が働いている.女性ホルモンであるエストロゲンの量は周期的に変動するが,それによって別の一群の遺伝子の発現が誘導される.また生体が高温にさらされると,「熱ショック遺伝子」群の発現が誘導される.DSIFはこういった様々な遺伝子の発現制御に重要な役割を果たしている.今回の発見は,こういった様々な生命現象に関する理解を深めるものといえる.
7 発表雑誌
Molecular Cell, volume 21, issue 2
掲載日:2006年1月20日
表題:P-TEFb-mediated phosphorylation of hSpt5 C-terminal repeats is critical for processive transcription elongation
8 注意事項
報道のembargoが米国東部時間で1月19日正午(日本標準時で1月20日2時)に設定されています.
9 問合せ先
山口 雄輝
e-mail:yyamaguc@bio.titech.ac.jp
10 用語解説集
RNAポリメラーゼII:ゲノムDNAを鋳型としてメッセンジャーRNA分子を合成する酵素.メッセンジャーRNAからはタンパク質が作られ,遺伝子が「機能発現」する.
DSIF:転写伸長反応を制御するタンパク質.転写伸長因子.
P-TEFb:タンパク質リン酸化酵素.